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2006年5月

2006年5月24日 (水)

進化する耳

以前、一人暮らしをしていた頃、極端に塩分の少ない料理を作っていました。
ジャガイモとにんじんを煮たりという程度です。まあ、そんなに凝った料理はしないし、そもそも出来ないのですが、、、、。
そうすると、どんどん自分の好みが薄味になっていって、たまに外食をするとすごく塩辛く感じるようになってしまったのを覚えています。

で、そういう料理を食べてると、食材の味に対して鋭敏になっていきます。これは粉っぽいジャガイモだな、とか、日向臭いにんじん(おいしい、って意味ですけど)だな、とか。
塩味の影に隠れていた食材の味が前に出てきて、その分食材の良し悪しは気になるようになるのです。

でまあ、今はといえば、再び普通に塩辛いものを食べるようになり、そのかわりに食材の味に関しては鈍感になってしまったような気がします。

・・・・・・・・・・・・・・。
そんな「慣れ」で自分の好みを変えてゆく楽しさを、久しぶりにヒップホップを聞きながら思い出しました。

最近評判の
KanYe West(カニエ・ウェスト)。


なんといっても、なつかし曲を大胆にサンプリングしているところにまず耳を奪われます。
ギル・スコット・ヘロン、カーティス・メイフィールド、オーティス・レディング、ビル・ウィザースなど、パッと聞きで曲名まで判るものから、エタ・ジェイムスのマイ・ファニー・バレンタインとか、ちょっと意外なところまで、幅広いメジャーどころの曲を大胆にサンプリングしています。
また、そんな大ネタに負けない作曲力もカニエの魅力です。管弦が入った曲なんて、ほんとすごい存在感です。


とまあ、このアルバムを聞いていて、ヒップホップがいかに自分の耳を変えてきたかを思い出し、ちょっとしみじみしてしまいました。

ヒップホップの歴史を語れるほど聞きこんでいないので、時系列では言えませんが、ヒップホップは、聴衆の耳を確実に進化させてきました。

初期のヒップホップは、(たぶん本当にレコードをつなぎながらバックトラックをつくっていたせいで)一曲の中から数小節単位で必要な部分を抜きだし、それを繰り返して(=ループさせて)バックトラックを作っていた、らしいです。

このグランドマスター・フラッシュは、ヒップホップの草分けの一人ですが、この音を始めて聞いた人は驚いたんでしょうね。「スクラッチ」という、回っているレコードを手で止めたり、戻したりする音を「音楽」として聞かせることを始めた人と言われています。
(スクラッチの創始者については諸説あります。)

これって、ある種、現代音楽というか、現代美術というか、「一定のスピードで回転してそれぞれの音楽を再生する」ことが目的だったレコードを、楽器として使い始めたという、概念の大転換です。
そのくせ(?)、黒人音楽の伝統である、芸能的な楽しさはたっぷり残っています。
おかげで、聞き手の耳が教育され、変容しはじめたのです。


そして、ヒップホップの進化で、人々の耳はさらに変容していきます。
私は、パブリックエネミーとかの、レコードの針音がしたり、音がひずんでいたりする「ヤれた」音色が大好きです。
しかし、それは、今思えば全く新しい感覚でした。
音が悪いのを楽しむなんて!!

余談ながら、私は子供の頃ジャズが嫌いだったのですが、理由は「音が悪いから」、、、、、?!

ともかく、今では、それがたまらなく気持ちいいように、耳が慣らされてしまっているのです。


さて、さらに。
ヒップホップの音楽の作り方の一つで、「ループ」があります。
とある有名曲のレコードから、ある一部分を切り取って繰り返すと、今までは普通やらなかったコード進行が生まれてきます。
(例えば、Em/Aの一小節を延々繰り返すとか、、、、。これは、わりと緊張感のあるコード進行なので、今までのポップスの感覚だと、なんどか繰り返すと別のコードで落ち着かせたくなるのですが、落ち着かない宙吊り感覚のまま一曲終えてしまうとか。例えばこういう感覚です。)

これと一緒に、ドラムや他の楽器も1小節で繰り返すと、同じところをぐるぐる回っていている感覚になってきます。気がつくと小節のアタマを見失いそうな、不思議な酩酊感が生まれるのです。

これが、「ループ感」です。今、曲の中のどのあたりを演奏しているのかわからなくなるような、方向感覚の喪失、いわば、失見当識、です。

また、誰でも知っているあの曲をループすることによって、初めての曲でも「既視感」が味わえます。
サンプリングするのは、ドラムの一発だけから組み立てることもあれば、サビのコード進行を丸々使うこともあります。
ポリスの"Every Breath You Take"を大胆にサンプリングしたこの曲は、ほとんどまるごとサンプリングしてます。こうなると、パクリとどうちがうんだ、という話も、、、、、、。
I'll Be Missing You / Puff Daddy ft. Faith Evans

しかし、原曲を知っていれば、その曲の世界に入りやすいことは確か、です。


さらにさらに、和声的には無茶苦茶な曲が登場してきます。

例えば、別々の二枚のレコードから、かっこいい部分を抜き出してきて、並行して並べるとします。
そうすると、互いの曲のキーが違ったりして、思いもよらない気持ち悪さというか、「悪目立ち」というか、、、忘れられないほど印象的なフレーズが生まれたりもするのです。
こうした曲が増えてくると、それぞれのパーツの「音色」がよければ、和声的には「間違って」いても「それがいい!」となる、耳の「慣れ」が生まれてくるのです。

こうして、「和声」のタガも、ヒップホップが外しました。


また、コンピュータの導入で、無茶苦茶に複雑なサンプリングが主流となってきます。例えばギャングスタのような、サンプリングで切り出したベースラインを一音単位で刻んでバックトラックを作り直すという、ほとんど偏執狂的な造り方です。

こう思うと、ヒップホップってものすごく私たちの耳を変えてきていますね。
「サンプリング」「和声」「ノイズ感」「ループ感」、「細切れ感」、、、

現代音楽よりもプログレよりも、プログレッシヴ。

気がつけば、音楽の中に全く新しい座標軸をいくつも作り上げてしまっていたのです。


で、カニエ。

これは、ヒップホップ以前の耳の持ち主(私もそうです)を巻き込むほど強力に、ポップ感覚にあふれたアルバム。
これを聞き続けていれば、いつのまにかヒップホップ耳が身につく、はずです。

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2006年5月 7日 (日)

4分の3と、8分の6

相変わらずの日曜チェリスト、、、、、、、ですらなく、レッスン前だけあたふた練習するという、とびきりできの悪い生徒を続けています。

最近とりかかったテキストは、ウェルナー。
今までのサポージニコフが一通り終わったあとの二冊目です。

ウェルナーも初心者用のテキストなので、ぱらぱら見たときは馬鹿にしていたのですが、いざ始めてみると自分のテクニックにたくさん落ちがあることが判り、面白い!!移弦や、指使いの癖など、ちょっとさらうたびに山ほど修正箇所が出てきます。


先週、リズムのことで面白い発見がありました。

たとえば。
ウエルナー日本語版の30ページには、4分の3拍子の曲があります。
3拍子なので8分音符二つずつを一拍に、「2+2+2」で3拍を数える(★○/★○/★○)のですが、この曲が曲者。メロディーと弓使いは、8分音符3つずつがひとかたまりになっているので、弾いているとだんだん「3+3」
(★○○/★○○)という2拍子に騙されてしまうのです。

スラーが前の3つの音符にかかっているので、どうも2拍子系に傾いてしまうわけですが。

先生曰く、同じ音符を同じように弾いても、2拍子か、3拍子か聞き分けられるのは、アクセントのつけかたが違うからです。
この、アクセントは、「拍子」「メロディー」「テンポ」の3つの要素で変わっていくというのです。


3つをそれぞれ見ていきましょう。

拍子は、各拍のアタマにアクセントが来ます。当たり前といえば当たり前ですが。
次に、メロディーというのは、音符の並びかたから生まれてくるアクセント。
上記、ウェルナーの例は、拍子とメロディーのアクセントが混在するために弾いていて混乱してしまうのです。

今回の話の流れからすると余談なのですが、もう一つ、アクセントを決めるのに大切な要素が、「テンポ」。
つまり、音楽の速度、BPMでかなりアクセントは変わっていくんだそうです。
特に、チェロは発音前に一瞬のタメを作らないと音の粒立ちが悪くなるので、ある程度以上のテンポになっていくと、一拍目のアクセントを残してアクセントが消えていくという現象が出てきます。
だから、上記のウェルナーの練習曲も、バカ早く弾けば、アクセントについての悩みは解決してしまうというわけ。
逆に、この曲をゆっくり弾こうとすると、様々なアクセントが混在し、とても難しくなるというのです。

以上、余談でした。


さて、話を戻します。
拍子とメロディーのアクセントは、「足し算」で増えていくので、上記の二種類のアクセントを混在させた

★○/★★/★○
★○★/★★○

これで、/の後は全てアクセント(★)が並ぶわけです。
そして、これが2拍子と3拍子を両方感じさせるアクセント、ということになります。
で、同じ★印でも、アクセントに微妙に濃淡をつけ、2拍子系と3拍子系の両方を感じさせるように弾いていくというわけです。


ところで。
3拍子の指揮をするときに描く、不思議な三角形のことを覚えていますか?

1は、思いっきり良く下がって、わずかに反動があり、
2は、1の勢いに乗って、横へちょっとすべるように動き、
3は、再び勢い良くもとの場所にもどります。

この形、先生によれば、西洋人の3拍子のリズム認識を図にしたものだといいます。
昔学校で習ったように、1,3拍目が強拍で2拍目が弱拍、、、という図式にも入らない。それぞれの拍は均等でなく、始点から3カウントを数えて終点=始点へ戻る運動だからです。

ちなみに、4拍子の図形は、3拍子の3拍目が右へ行き過ぎて、4拍目で元に戻るという図形でしたよね。
あれは、4拍子=3拍子+1拍、という西洋的なリズム認識を表しているのだとか。3拍子を数え、おまけに1拍入れるのが4拍子ということです。

「打ち込み」音楽を経過した私の耳だと、4拍子なら4拍を均等に数えてしまう癖があるのですが、これを直すのはたいへんだあ、、、、、、、という話は、前にも書いた気がします。


そもそも、物心ついたときから、4拍子の曲と数多く親しみ、むしろ3拍子のほうが親しみが薄い私。今後も、リズム認識の修行は険しそうです。


追伸。

全く関係のない話ですが、指揮者の金聖響さんの指揮、動き自体が芸術ですね。
指揮棒と体が一体になりながら音を視覚化していて、見ていて楽しい指揮というのはこういうものなんだなあ、と思いました。

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乱暴力

連休も今日で終わり。

連休前はバタバタしていて、これで本当に休めるのかと思いきや、実際に突入してみると、一日出勤しただけでたっぷりと休めました。日帰りドライブに行ったり、バーベキューをしたり、あとは本をたっぷり読み、音楽をぼちぼち聴いた、いいお休みでした。

そして、今日は雨。

休みの終わりというダウナーな気分にぴったりのこのアルバムを久しぶりにかけてみました。

で、一曲目「ろっかばいまいべいびー」に自分の耳を疑いました。
あれ、こんなに演奏、下手だっけ。


メロディーや歌詞のメランコリックさからすると、ラグタイムピアノなんかが入ってくると似合いそうですが、この一曲目だけ、アコギ、ベース、歌とも、細野さんの一人多重録音。
特にギターがバタバタで、ところどころシャッフルしたり、もたったりと、「これって自主制作?」的なヘタヘタさです。ついでに言えば、音もこもっていて、音質も宅録レベルです。


ヘタウマとも言えないぐらいのよれよれ加減ですが、でも、これがいいのです。

自分のファーストソロの一曲目に持ってきたわけですから、かなりの思い入れがある曲だと考えるのが自然です。
「はっぴいえんど」の呪縛から逃れるためにはこれぐらいの自分グルーヴが必要だったのかもしれません。


2曲目以降は、レイドバックしたバンドサウンドで、リトルフィートを思い起こす南っぽいグルーヴ全開。
細野さんの自宅に録音施設を持ってきて、合宿スタイルで制作したとか。リラックスした雰囲気の中、ベースの技も、たっぷり楽しめる名アルバムです。

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