« おんなうた、おとこうた | トップページ | 卵にできること。(エルサレムの村上春樹) »

2009年4月 4日 (土)

あなたも見られている "Someone To Watch Over Me"

ジェフリー・ディーヴァーの新作、「ブロークン・ウインドウ」をようやく読み終えました。辞書を引き引き。

今回の犯人は、個人情報を自在に入手できるというつわもの。

ある人がどんな芸術を好み、ホームセンターで何を買い、どんなスナック菓子を食べたか、、、、そんな些細な事実を縦横に使って、人を殺し、無実の人を犯人に仕立て上げます。
そして、さらには、その個人情報を書きかえ、遊び半分に人を破滅に陥れる。。。。
いつものの証拠捜査で追い詰めるライムにも、やがて危機が訪れます。

今回も、ライムの従兄弟との関係や、「新米」というあだなの警官との擬似父子関係など、シリーズものを読む楽しみを存分に満足させてくれています。


でも、それ以上に興味深いのが、アメリカの情報産業の恐ろしさです。
小説で描かれる巨大情報企業は、いかにもありそうです。
個人の些細な情報を集積すれば、詳細な個人のプライバシーが見えてくる。そして、それがいかに儲かり、そして国の治安の問題ともからんで、巨大な権力となりうるのか。


タイトルにもなっている"broken window"(割れ窓理論)とは、窓一つ割れていない都市には抑止力が働いて犯罪が起こらなくなる、という理論です。これは、監視、管理を徹底すれば犯罪は起こらない、という考え方で、一瞬うなづきそうになりますが、それを認めることは超・管理社会へのプレリュードでもあります。

911以降の情報産業のありようとして、国家の安全管理とくっつくのは非常にありそうな展開ですし。背筋が寒くなります。


現代のプライバシーとは、という今回の大テーマを象徴するのが、小説冒頭に引用されているロバート・オハローの「逃げ道なし」の一節です。

「プライバシーの侵害は、大概の場合、大規模な漏洩ではなく、むしろ小さな事実の公開によって起こる。ミツバチと同様、一匹は取るに足らないが、群れなら死に至るのだ」

オハローは、アメリカの個人情報分析ビジネスについてのノンフィクションを書いた人らしいです。


さて、本の最後の、「ありがとうリスト」では、「クルー」として、おおぜいのスタッフの名前が載っています。
どうやら、この「リンカーン・ライム」シリーズ、チーム取材で、膨大なディテールを積み重ねながら書いているようで、小説の随所に、(おそらく事実の)ぞっとするようなエピソードがたびたび提示されます。
なんか、ゴルゴ13を描くさいとうたかをを連想してしまいました。

ラスト、犯人が情報をどうして入手したか、という謎解きにはちょっとムリがあるのでは、と思います。ただ、そういうムリでもなければ小説にならないわけで。

「情報化社会に警鐘を鳴らす!」、というと陳腐ですが、普段の自分の生活パターンで、情報を漏らしていないかな、なんて反省もする、教育的意味もある小説でありました。

内容的にはいつものジェットコースター。損はしません。


ところで、このネタと関連あるようなないような、、、、、

村上春樹の新作、タイトルは”1Q84”と発表されました。
ジョージ・オーウェルの1984とかけているなら、これまた管理社会の物語なのでしょうか。
5月発売、なんと2000枚の大長編だそうです。

|

« おんなうた、おとこうた | トップページ | 卵にできること。(エルサレムの村上春樹) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/96993/44565977

この記事へのトラックバック一覧です: あなたも見られている "Someone To Watch Over Me":

« おんなうた、おとこうた | トップページ | 卵にできること。(エルサレムの村上春樹) »