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2009年6月10日 (水)

発射されない拳銃 ~異形のメタ小説『1Q84』~

村上春樹の『海辺のカフカ』には、超能力を持つ老人「ナカタさん」が、ヒルや魚の雨を降らせるシーンが登場します。
昨日、まさにそのシーンを読んでいたのですが、今日は新聞でこんな記事を読みました。


asahi.comより「空からオタマジャクシが降ってきた? 石川県で相次ぐ

空から魚が降ってくることは時々は起こることのようですが、(Google検索”空から魚が”)、それにしてもねえ。

記事を読んだとき、現実とフィクションの境目が少しばかり薄くなった気がして、頭がクラクラしました。
。。。。。。。。
どうやら、世界は日増しにハルキ化しているようです。

(「ハルキ化」とは、「明らかに何かの象徴らしい不思議な事が起こるが、それが何を象徴しているのは明かされないこと、その度合いが強まること」ということにしときましょう。)

---

前回、前々回と『1Q84』について書いたあと、頭の中で寝かせている間に、なんとなく解ってきたことがあります。


「解決しない謎が頻発する」というのは、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』あたりから顕著になってきた特徴です。
そして、最近になるほど、村上春樹は確信犯的に、「解決しない謎」を振りまくようになっているような気がします。

これ、「登場した拳銃は発射されなければいけない」という従来のドラマツルギーに照らしていえば、かなり異様なことです。
でも、それに対しての村上春樹の回答は、「拳銃は発射されないこともある、その方がドラマチックなら」、でした。

そして、読者も、たくさんの発射されない拳銃を見ながらも(そして時々は文句をいいながらも)、きっちり村上春樹についていっているわけで、ということは、村上は、新しい小説のスタイル、というかコンセプトというか、を確立させはじめているのでしょう。

では、どんな拳銃は発射され、どんな拳銃は発射されないのでしょうか?これが私にはわかりません。
でも、村上春樹は、確かに二種類の拳銃を使い分けて物語を進めているようです。

これって、前衛的な絵を見る時に、「作者はなぜここで完成だと思ったんだろう」と思うのと似ています。
もっと塗り重ねてもいいし、逆に、キャンパスが白地のまま残っていてもよかった。でも、作者は、どこかの時点で、「ここで完成」と線を引いている。
でも、その「完成した」という確信は、どこからなぜ生まれてくるんだろうか。


さらにいえば、続編の『book3』が出るか出ないか判断できないのは、村上春樹の小説の、この特異性によるものです。
『book 2』で終わってもアリ、終わらなくてもアリ、ということを、私たち読者は既に『ねじまき鳥クロニクル』を通過して学んでしまっていますからね。


---
さて。

以前、村上春樹は、自分の小説に「解決しない謎が多すぎる」ことについて、こう答えています。
「僕ら小説家の仕事はうまい回答を出すことよりは、むしろ優れた設問を提出する事にあります。」
(読者とのメール書簡集『少年カフカ』p52より)

さらに、『1Q84』の中でも、村上小説を読む上での「ゲームの規則」についてくりかえし書いています。
それは、「疑問の答えを探す事は重要ではない。疑問を疑問のままで抱えながら、考え続ける力を持つことが大切だ」、というものです。
(すいません、本文から引用したかったのですが探し切れない、、、)


ここまで考えて、『1Q84』とは、村上春樹が「小説を書くこと/読むこと」の意味を考えつつ、その考える過程自体を小説に取り込んだ、究極の「メタ小説」(小説についての小説)ではないかと思いました。

村上春樹は、

なぜ自分が書く小説には謎が頻発するのだろう。
なぜ、自分は沢山の謎を未解決のまま積み残している小説が「完結した」と思えるのだろう。

、、、そんな疑問を、読者と同じ立ち位置で悩みながら、新たな作品を紡いでいるように見えるのです。

『1Q84』は「優れた設問」に満ち満ちているので、今のところ消化不良になっていますが、逆に言えばこれこそ再読する条件。
時間をおいて、ゆっくりと何度も読んでいく楽しみと、意味があると思います。

追伸

「登場した拳銃は発射されなくてもいい」。
となると、、、、思い出すのはラストシーンの拳銃。

登場の場面から、熱烈な枝豆青豆ファンになってしまったので
(ならない人がいるだろうか?)いよいよ続編に期待が高まります。


さらに追伸

パシヴァ(知覚するもの)と、レシヴァ(受け入れるもの)の関係は、翻訳においての作者と翻訳者を思わせます。
つまり、この小説には、翻訳者・村上春樹の翻訳感も描かれているのだと思います。
このへんも「『1Q84』はメタ小説である」という考えが浮かんだ所以ですが、これは上記の話とはあまりにも筋が違うので、またいつか。


最後に、「参考」。

asahi.comの記事「空からオタマジャクシが降ってきた? 石川県で相次ぐ」より

----(以下引用)------

空からオタマジャクシが降ってきた? 石川県で相次ぐ

2009年6月9日12時0分

 空からたくさんのオタマジャクシが降ってくる「珍事」が今月に入って石川県内で相次いでいる。竜巻に巻き上げられた魚などが地上に落ちてくる現象は知られているが、当時は竜巻が発生しやすい状況ではなかった。鳥が運んだ可能性も低そうで、原因はわかっていない。

 最初に確認されたのは4日午後4時半ごろ。七尾市中島町の市中島市民センターによると、センターの駐車場にいた男性職員が「ボタッ、ボタッ」という鈍い音を聞いた。振り返ると、車の上や地面に体長2~3センチのオタマジャクシが大量に落ちていた。

 センター内にいた同市職員の舟倉究(きわむ)さん(36)が見に行くと、自分の車の天井やガラスなどにオタマジャクシ約10匹がへばりつき、周囲で100匹ほどが死んでいた。高いところからオタマジャクシをばらまけるような場所は辺りになく、「空から落ちてきたとしか思えない」。8日午前8時ごろには、センターの西約4キロにある七尾市議宅の玄関付近にもオタマジャクシ5匹が落ちていたという。

 七尾市中島町から約80キロ離れた白山市徳丸町。石川信子さん(75)は6日午前7時半ごろ、「オタマジャクシが落ちている」と近所の人が話すのを聞いて外に出た。長女(47)の車のボンネットの上で体長約3センチの5~6匹がつぶれ、周囲にも30匹前後が落ちていた。「この地に40年近く住んでいるが初めてのこと」と不思議そうに話した。

 金沢地方気象台によると、オタマジャクシが見つかった日時場所の大気状態は安定し、竜巻が起こる条件ではなかったという。いしかわ動物園(能美市)によると、サギやカモなどがオタマジャクシを食べることはあるが、「100匹以上を一斉に同じ場所に落とすとは考えられない」という。

----(引用おわり)------

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コメント

コメントありがとうございます。
確かに、3章で「旧式の6連発リボルバー」という記述がありますね!

教えていただくまで全く知りませんでしたが、日本の拳銃は5連発がスタンダードなんですね。
拳銃というのは6連発なモノだと思い込んでいました。(映画の印象などからかもしれません。)

『海辺のカフカ』の中で、当初カフカ少年が某有名チェーン店で食事をするシーンがあったが(「すかいらーく」かな?)、四国にはその店がないので、次の版から訂正したという話があります。(『少年カフカ』のどこかで読んだはずですが、すぐに出てきません)

その世界はこの現実の世界と同じはずなので、6連発というのは理屈が通りません。
もしかしたら、書き換えがあるかもしれませんね。

投稿: みみをすます | 2009年6月27日 (土) 午前 07時36分

 冒頭部分で、以前の警官の拳銃が回転式6連発との記述がありますが、日本の警官の拳銃は回転式の多くは5連発のように思います。読んでいる間ずっと気になりましたが、他の拳銃についての記述が詳しいだけに村上さんに何か意図があるのでしょうか?

投稿: | 2009年6月25日 (木) 午後 04時12分

誤字よりも勢いの方が大事な時がありますよ!

ところで、月がどうかしたんですか?
月は昔から二つあるけどなあ。大きいのと小さいのと。


・・・・・・なんて、嘘です(笑)。

でも、私も、読み終わった日の夜は思わず月を探してしまいました。
なんかそういう、現実を侵食してしまうような力が、村上さんの小説にはあるような気がします。

投稿: みみをすます | 2009年6月13日 (土) 午前 08時27分

早速のコメント、ありがとうございます。読み直しをしっかりしないまま、載せてしまうと、後から気付く誤字は、とても恥ずかしいものです。失礼しました。
最近、我が家では、「そろそろ、お月さまが2つ出てくるんじゃないの?」と夜空を気にしています。

投稿: SAECHE(シーチェ)遠藤 | 2009年6月12日 (金) 午前 10時13分

SAECHE(シーチェ)遠藤さま
「みみをすます」です。こういうふうに名乗ることを想定せずにつけちゃったので、なんだか変な名前ですが、どうぞよろしくお願いします。
過分なお褒めの言葉、ありがとうございます。ブログは、自分の頭の中を整理するための場、というぐらいの気持ちでやっています。ですので、正直、あんまり読んで頂いている方のことは意識していませんでした。
でも、同じことを考えている人がどこかいるというのは、とても励まされるし、嬉しいものなんですね!
不思議が人を結びつけるって、なんだかハルキ的。私も、オタマジャクシに感謝です。

追伸
オタマジャクシが降ったのは七尾市ですが、ここにほど近い羽咋市のキャッチフレーズは、「UFOに会えるまち」。いよいよ、『海辺のカフカ』と共振してるのかも?

さらに追伸
私は文章のプロじゃないです。今後も自分で考えることと、正直に書くことを心がけてゆっくり続けていくつもりですので、どうぞよろしくお願いします。

投稿: みみをすます | 2009年6月12日 (金) 午前 04時05分

長年、村上さんを読んできました。書評も読んでいますが、自分が感じた思いと表わしてくれているものになかなか出合えませんでした。ところがです、(「みみをすます」さんでよろしいでしょうか?)「みみをすます」さんとの出会いは、感動でした。こまかいところでも、共感できます。書評家の人たちの文章は、それで食べている読み方が伝わってきてしまいます。(もし、「みみをすます」さんがプロの方なら、ごめんなさい。)改めて、石川のオタマジャクシさんに感謝です。これからも、読ませていただきます。この出会いに感謝、感謝。

投稿: SAECHE(シーチェ)遠藤 | 2009年6月11日 (木) 午前 12時45分

「みみをすます」です。
ご指摘ありがとうございました!

Book1 p13で、

ときどき間違えて「枝豆さん」と呼ぶ人もいた。「空豆さん」といわれることもある。

というくだりがありましたが、、、
青豆さんにお仕置きされないか心配です。

それにしても、勢いで書いているせいか、固有名詞の間違いがけっこうありました。「ネジマキ鳥」⇒「ねじまき鳥」とか。
気がついたものは直しました。


ところで、また石川で魚が降りましたね。

ナカタさん、石川県を南下中?

投稿: みみをすます | 2009年6月10日 (水) 午後 09時48分

>登場の場面から、熱烈な枝豆ファンになってしまったので
青豆ですよねこれ?

投稿: 通りすがり | 2009年6月10日 (水) 午前 09時35分

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