« 「喧嘩上等」 by 村上春樹 ~『1Q84』の挑発~ | トップページ | 発射されない拳銃 ~異形のメタ小説『1Q84』~ »

2009年6月 6日 (土)

ジャムってる。~『1Q84』を読了して~(ネタバレあり)

"jam"という言葉。
ジャズなんかでは、即興演奏を一緒にすることですが、「群がる」、とか、「ギュウギュウづめになる」、という意味もあります。
コピー機の中に紙が詰まって、出てこない状態も、「ジャムる」って言いますね。

「頭の中がジャムってる。」
まさに、今の私の気分にぴったりです。
言いたいことは沢山ある「ような気がする」んだけど、未整理で、言葉にならない感じ。
(でも、言葉にならないということはまだ掴んでない、わかってない、んだよな。)


さて、先日本を買う前に、いつもの喫茶店に行って、マスターに村上春樹の新作が出たという話をしました。
そういうこともあって、昨日また喫茶店に行ったとき、「どうでしたか?」と聞かれました。
うーん、と困って、「読み始めたら止まらなくなりますよ。でも、かなり挑発的な小説かもしれません」と、わかったようなわからないようなことを答えてお茶を濁してしまいました。

そんな濁った頭を抱えたまま、まだ読み返す気にもなれずに、机の上に寝かせています。

そうしていると、心のどこかで引っかかっていたけど、読んだときには自分でもそれと気がつかなかったことが、ふっと頭をもたげてきます。
まだ断片なのですが、それをちょっと言葉にしてみようかと、思い立ちました。


「天吾」という名前のこと。

"yo la tengo"ヨ・ラ・テンゴというバンドがあります。

静かなる前衛、という感じで、ゆがんだ轟音ギターに美しいメロディ。
小さな音で聞くと、とても沁みます。
表面は静かな河だけど、その川底は深くてひんやりしていて、見えない深みではずいぶん多くの水が流れている、そんなバンド。
これとテンゴの名前は、関係あるのだろうか。

もう一つ、天吾くんがらみですが、なぜ村上作品に登場する性描写って、男性がいつも受身なのだろう、と思います。
シャーマン的な一面を持った女性に導かれて関係を持ってしまうことがとても多い。
今回は、その受身度がたぶん5割ぐらいは増していて、(理由はわからないけど)体がしびれて動かないという状態でのセックスという。。。。なんだか言い訳じみていて、ちょっと引っかかる、というか、あんまり好きになれないシーンでした。
なぜ、こんなふうに、自分の意思でなく関係を結んだことが強調されるんだろう。


最後にもう一つ気になったのが、「損なわれる」という言葉の使い方です。

今までの村上春樹の小説でも、「損なう」「損なわれる」という言い方は出てきました。特に、『ねじまき鳥クロニクル』での使い方は、とても印象に残るものでした。
「傷つく」とか「気がふれる」とか、そういう他の表現には回収できない、なにかとても特別で悲劇的で、不安定な状態を「損なう」という言葉で表していたように思います。

『1Q84』でも天悟の恋人の夫からの電話で、恋人が「損なわれた」ことを告げられます。
でも、ここで感じるのは、今までの不吉な得体も知れない状況ではなく、、、、、なんて表現すればいいんだろう、絶対的で安定した状態のように感じるのです。
なぜこう思ったのだろう。でも、前のブログで書いた、混沌が「わかりやすい混沌」になってきている、という印象の原因の一つは、たぶんこれです。

さて、
『1Q84』、売切れが続出したりして、またニュースネタになっているようです。
情報を全く出さないという販売戦略が当たった、というのはそうなのでしょうが、これだけたくさんの人が村上春樹を求めたというのは、何か深いところで村上春樹が描くものが、深いところでゆっくり共有されてきた、地殻変動の証みたいなものなのかも、とぼんやりと思っています。

|

« 「喧嘩上等」 by 村上春樹 ~『1Q84』の挑発~ | トップページ | 発射されない拳銃 ~異形のメタ小説『1Q84』~ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/96993/45251838

この記事へのトラックバック一覧です: ジャムってる。~『1Q84』を読了して~(ネタバレあり):

« 「喧嘩上等」 by 村上春樹 ~『1Q84』の挑発~ | トップページ | 発射されない拳銃 ~異形のメタ小説『1Q84』~ »